日本は私有財産制度をとっていて、財産は個人の私的所有に属しています。
人は生前に自分の財産を自由に処分できるように、死後の財産の帰属も生前に自由に決定できるというのが、遺言による指定相続分が法定相続分に優先される理由です。
しかし、人は単独で生きていることはまれで、家庭を持ち家族を養って暮らしています。
父が亡くなり、その父が稼いだ財産に依存して暮らしてきた妻や子供に、遺産が全く留保されなければ、たちまち生活に窮することになってしまいます。
また、亡くなった夫名義の財産には、妻の潜在的持分が含まれているとみなしていることは、8 相続の基本的考え方で述べたとおりです。
こうした理由から、相続においては遺産の一定割合を一定の相続人のために留保できることになっていて、これが遺留分という制度です。
つまり遺留分は、遺言によっても奪うことができない、一定の相続人に保証された一定の財産のことです。
遺留分の権利は一定の相続人が持っている潜在的権利であって、遺留分権利者が相続開始か自分の遺留分が侵害されていることを知ってから1年以内に、権利(遺留分減殺請求権)を行使することによって、はじめて効力を発揮します(相続開始から10年経つと自動的に時効となります)。
ですから、遺言書の内容がある相続人の遺留分を侵害していても、その遺言書が無効になることはありません。
遺留分を持つもの(遺留分権利者)は法律で定められていて、配偶者・直系卑属(子供や孫=子供がすでに亡くなっていた場合の代襲相続人)・直系尊属(両親や祖父母=両親がすでに死亡し祖父母は健在の場合)になります。
被相続人の兄弟姉妹には遺留分はありません。
遺留分の遺産全体に対する割合は、相続人が直系尊属だけの場合は3分の1で、それ以外、つまり相続人に配偶者および直系卑属がひとりでもいれば、遺産全体の2分の1が遺留分となります。
例えば、妻子のいる人が愛人に全財産を遺言書で遺贈してしまった場合、妻子が遺留分減殺請求権を行使し全財産の半分までは取り返すことが可能です。
取り戻した遺産は、法定相続分にしたがって妻が全財産の4分の1(遺留分の2分の1)、子供が2人なら8分の1(遺留分の4分の1)ずつ分けることになります。
なお、遺留分減殺の対象となるのは遺産だけでなく、相続開始前1年間におこなわれた贈与なども遺留分減殺の対象です。
また、特別受益(⇒3 遺言書で何ができるか 参照)を受けた相続人の特別受益を含めた相続分が、他の相続人の遺留分を侵害していれば、遺留分減殺請求権を行使される対象となります。
遺留分の権利を行使するには、相続開始か自分の遺留分が侵害されたことを知ってから1年以内に、遺留分減殺請求書という書面を、遺留分を侵した相続人または受遺者(遺贈を受けたもの)に送ります。
遺留分の権利は相続開始を知ってから1年以内に行使しなければ時効で失われます。
また、長く海外にいて相続があったことを知らなかった場合でも、相続開始から10年経過すると自動的に時効となり、それ以降は請求することができなくなります。
遺留分減殺請求書は通常内容証明郵便で配達証明書を付けて送付します。
法律上は口頭でも構わないのですが、遺留分減殺請求の意思表示をしたことの証拠を残すためにもこちらのやり方が確実です。
文面は、遺留分の具体的金額がわからなければ、金額などは明記せずシンプルに「私は○○○○の遺産相続について遺留分を有しているので、遺留分の減殺を請求する」だけでOKです。
この意思表示が相手(遺留分を侵害した相続人や受遺者)に伝われば、遺留分に相当する遺産は遺留分権利者の所有に属したことになるとみなされ、後は協議や調停によって取り戻す作業に入ります。
遺言書を作成する人は、できるだけ特定相続人の遺留分を侵害しないよう、相続分指定や遺贈の指定に配慮することが必要です。
また、遺留分を侵害するとしても、遺留分減殺請求を起こされないように、指定の理由を遺言書に付言しておくとか、生前あらかじめ口頭で依頼しておくなど、対策を講じておくようにしましょう。